蝶の昼

啓蟄や母の遺品の虫眼鏡
いつになく喋りすぎたる蝶の昼
川多き町の格子戸鴨帰る
これ以上老いてどうなる春北斗

 まだ若かった頃、定年退職した先輩が時々職場に顔を出して、釣りやゴルフ三昧の楽しげな余生を私たち語って聞かせるのだが、ちらちらと見せる寂しげというか不安げな表情が何となく気になったが、仕事を理由に追い立てるように帰した。
 あの時の帰って行く先輩の後ろ姿が忘れられない。それが何だったのか、今なら判る、どんなに元気で趣味に没頭していても、ふと現実に戻ったときの老いていく不安、寂しさはその時にならないと判らないものである。
 先輩に可愛がられ、指導してもらったお陰だったのにと今更ながら頭を垂れるが、これは順繰りであり、誰もが通る宿命であろう。

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by haikutarou | 2018-03-20 20:39 | 「西瓜の種」(自作句集)